サウナしきじに学ぶ、「困る瞬間」のない業務システム設計
- DATE
- 2026-07-17
- REVISION
- A
- AUTHOR
- スルガクラフト合同会社
- SHEET
- 01 / 01
先日、静岡のサウナ「しきじ」に行ってきました。
…業務システムの会社が何の話だ、と思いますよね。でも少しだけお付き合いください。最後にちゃんと、システムの話になります。
しきじは、サウナ好きの間で「聖地」と呼ばれる場所です。全国のサウナーが、わざわざ静岡まで巡礼に来る。正直に言うと、私はもう何度も通っています。県外の知人が来れば「まず、しきじに行こう」と連れていく。ここまで来ると、ただのサウナ好きのおじさんです。
ここまでハマって、あるとき気づきました。しきじが提供しているのは、施設でも設備でもない。「最高に整う」という体験そのものを、設計して出しているのだと。
面白いのは、その体験を、目に見えるスペックでは一切飾らないことです。「水風呂の温度はシングル(一桁台)です」とも、「有名ブランドのととのい椅子を置いています」とも、「今月のロウリュイベントは…」とも言わない。数えられる自慢を、まるでしません。
その代わりに徹底しているのが、サウナ → 水風呂 → 整い、という一連の流れです。熱いサウナで体を追い込み、日本一とも言われる天然水の水風呂で一気に冷やし、そして整う。この体験の”通り道”が、恐ろしく丁寧に設計されている。だから初めての人でも、迷わず、最高の整いにたどり着けます。
そして、細部を見はじめると、こだわりがキリがありません。床は歩いても足が冷たくならない。備え付けの歯ブラシが、ペラペラの安物じゃない。行くたびに、新しい発見がある。ほとんど誰も気づかないような細部が、全部、たった一つの目的――「整う」――のために存在しています。
これが、私が「引き算の設計」と呼びたいものの正体です。見える飾りを削り、見えない体験の一点に、すべてを注ぎ込む。 そして私は、この思想こそ、業務システムの世界で一番足りていないものだと本気で思っています。
私たちは、測れるものしか見ていない
業務システムの世界は、その逆です。私たちは、測れるものにしがみつきます。「業務効率◯%向上」「処理時間を◯秒短縮」。数字で語れる指標だけを追いかける。
でも、本当に効いているコストは、その数字に一切現れません。
現場のベテランが、画面の前で固まります。「これ、どうやるんだったかな」。そして隣の若手を呼び出す。若手が席を立ち、教えに来るまで、その人の業務は止まる。呼ばれた若手の手も、止まる。二人分の時間が、毎回溶けていく。これが1日に何度も、全社員のあちこちで起きています。
けれど、この「止まる瞬間」を数える指標は、どこにもありません。誰のKPIにも乗らない。だから私たちは、機能を盛り続けても”改善している”と錯覚してしまう。効率◯%向上の裏側で、測られない”困る瞬間”を、せっせと量産しながら。
引き算の設計とは、この”測れないコスト”を直視することです。派手な数字から降りて、「誰も呼び出さずに、最後まで自分で終えられるか」――その一点を、本当のKPIに据え直すことです。
Model-Driven App にも、“整いの動線”がある
サウナ → 水風呂 → 整い に、しきじが全リソースを注いだように。Model-Driven App にも、本来こういう”体験の通り道”があります。
「サイトマップ → ビュー → フォーム」――左のメニューから目的の一覧を開き、行をクリックして詳細を見る。この一貫した流れこそが、業務システムにおける”整い”、つまり「迷わず、困らず、最後まで自分でたどり着ける」体験です。はじめて触る人でも、手が止まりません。
ところが現場では、「何でもできます」から要望が積み上がります。ビューから直接編集したい。一覧をリアルタイムで一括更新したい。複雑な帳票をそのまま出したい。ひとつひとつはもっともです。けれど応えるほど、標準のシンプルな画面はJavaScriptとプラグインで塗り固められ、あの”整いの動線”が、少しずつ壊れていきます。
しきじが水温やブランドを自慢しないように、優れた業務システムは、機能の数を自慢しません。その代わり、しきじが床や歯ブラシにこだわるように、“体験を邪魔しない見えない細部”――迷わない導線、現場の言葉で書かれたラベル、余計な確認クリックが無いこと――にこだわります。目立たないけれど、それが「困らなさ」を生むからです。
(ビューやフォームが実際に”重くなる”仕組みは モデル駆動アプリが重い に、“現場が本当に欲しいもの”は システム都合のプロセスの介在 に書きました)
足しているのに、引き算
では、複雑な帳票や特殊な採番といった、現場が本当に必要とする機能はどうするのか。捨てろという話ではありません。
答えは、「アプリ本体の体験を汚さず、複雑さを外に逃がす」です。
複雑な日本語帳票は、フォームにカスタムを盛るのではなく、専用の帳票エンジンに任せる。厄介な採番ルールは、画面にJavaScriptを書くのではなく、裏側のエンジンで完結させる。そうすれば、現場が触る画面は「サイトマップ → ビュー → フォーム」のまま、きれいに保たれます。
機能を足しているのに、体験としては引き算されている。私たちが製品でやろうとしているのは、突き詰めればこれです。この「どこまでを設定で変えられるようにして、どこから先は外に逃がすか」という線引きは、Power Apps / Dataverse のカスタマイズはどこまでやるかで別の角度から書いています。
本当の革新は、削る勇気の中にある
本当の革新とは、新しい機能を足すことではありません。勇気を持って不要を削ぎ落とし、見えない体験の一点に、すべてを注ぎ込めるかにあります。
しきじが、目に見えるスペックで飾らず、“整い”という体験だけを設計し尽くしたように。業務システムも同じです。機能を盛るほど、現場の人が困る瞬間は増える。体験に集中するほど、その瞬間は消えていきます。
私たちがつくりたいのは、機能の多いシステムではありません。現場の人が、困る瞬間に出会わずに済むシステムです。そして願わくば――若手を呼び出さずに、最後まで自分の手で終えられるシステムです。
複雑さを外に逃がすための部品として、帳票エンジンと採番エンジンを用意しています。「うちのフォーム、盛りすぎているかもしれない」と感じたら、無料の診断で、どこを削ってどこを外に出すかの整理からお手伝いします。